肩関節脱臼に対する主な手術
Bankart(バンカート)修復術
肩関節が前方へ脱臼すると、肩甲骨関節面の前下方にある関節唇や関節包・靱帯が剥がれることがあります。これをBankart lesion(バンカート損傷)と呼びます。Bankart(バンカート)修復術では、剥がれた関節唇と関節包・靱帯を、Suture anchor(スーチャーアンカー)と呼ばれる器具を使って肩甲骨側へ修復します。
肩の安定性に関係するIGHL complex(アイジーエイチエル・コンプレックス/下関節上腕靱帯複合体)を含め、前下方の組織を修復する代表的な手術です。
関節包縫縮術
肩関節を包む関節包が大きく緩んでいる場合には、関節包を縫い縮める手術が行われることがあります。術式には、
- Capsular plication(カプスラー・プリケーション)
- Capsular shift(カプスラー・シフト)
- Inferior capsular shift(インフェリア・カプスラー・シフト)
などがあります。
Bankart(バンカート)修復術と併用されることもあり、MGHL(エムジーエイチエル/中関節上腕靱帯)やIGHL(アイジーエイチエル/下関節上腕靱帯)を含む関節包・靱帯組織の緊張を調整します。
術後は肩の安定性が高まる一方で、外旋などの可動域が制限されることがあるため、無理に動きを広げず段階的に回復させます。
Remplissage(レンプリサージ)法
肩関節が前方へ脱臼した際に、上腕骨頭の後外側が肩甲骨関節面へ衝突し、骨がへこむことがあります。これをHill-Sachs lesion(ヒル・サックス損傷)と呼びます。骨のへこみが肩甲骨関節面に引っ掛かり、再脱臼につながる可能性がある場合には、Bankart(バンカート)修復術にRemplissage(レンプリサージ)法を追加することがあります。
この手術では、棘下筋腱と後方関節包をHill-Sachs(ヒル・サックス)損傷部へ固定し、骨のへこみが関節面へ引っ掛かりにくくします。
術後は肩の安定性だけでなく、外旋可動域や棘下筋を含む腱板の筋力、投球・サーブ動作などを確認する必要があります。
Latarjet(ラタジェ)法・Bristow(ブリストー)法
肩甲骨関節面の前方に大きな骨欠損がある場合や、Bankart(バンカート)修復術後も脱臼を繰り返した場合などには、烏口突起移行術が選択されることがあります。代表的な術式が、
- Latarjet(ラタジェ)法
- Bristow(ブリストー)法
です。
肩甲骨にある烏口突起の一部を、そこに付着する筋・腱とともに肩甲骨関節面の前方へ移動して固定します。
移行した骨によって関節面を補うだけでなく、烏口突起に付着する共同腱が肩の前方を支える働きも利用して、肩関節の安定性を高めます。
術後は関節唇や関節包だけでなく、移行した骨の癒合も考慮する必要があります。コンタクトプレーや高負荷のトレーニングへ進む際には、主治医による画像評価や許可を確認します。
HAGL(エイチエージーエル/ハグル)損傷修復術
HAGL lesion(ハグル損傷)とは、肩を安定させる下関節上腕靱帯が、上腕骨側から剥がれる損傷です。関節唇が肩甲骨側から剥がれるBankart(バンカート)損傷とは、損傷する場所が異なります。
状態に応じて、剥がれた関節包・靱帯を上腕骨側へ修復する手術が行われます。
手術後に残りやすい問題
手術によって肩関節が安定しても、すぐに以前と同じように動かせるわけではありません。- 腕を上げにくい
- 肩を外側へひねりにくい
- 背中へ手を回しにくい
- 腕を上げると肩がすくむ
- 肩周囲の筋力が低下している
- 手をついて身体を支えるのが怖い
- 投球やサーブに不安がある
- 接触プレーへ戻るのが怖い
- 再び肩が外れるのではないかという恐怖感がある
修復した組織や骨が治癒することと、仕事やスポーツで肩を安全に使えることは同じではありません。
可動域、筋力、肩甲骨の動き、肩関節を安定させる能力、実際の動作に耐える力を段階的に取り戻す必要があります。
手術後のリハビリ
1.修復した組織や骨を保護する
術後早期は装具を使用し、修復した関節唇、関節包・靱帯、移行した骨などを保護します。主治医の指示に従って、
- 手指・手首・肘の運動
- 痛みや腫れの管理
- 指示された範囲での肩の運動
- 肩甲骨周囲の軽い運動
などを行います。
自己判断で肩を強く伸ばす、重い物を持つ、手をついて身体を支えるといった動作は避けます。
2.肩の可動域を回復する
修復部分を守りながら、腕を上げる、肩を内側・外側へひねるといった動きを徐々に広げます。早く動きを戻そうとして強く伸ばしすぎると、修復した組織へ負担をかける可能性があります。
特に、
- Bankart(バンカート)修復術後の外旋
- 関節包縫縮術後の外旋
- Remplissage(レンプリサージ)法後の外旋
- Latarjet(ラタジェ)法後の外旋や高負荷運動
などは、手術内容と主治医の指示を確認しながら進めます。
3.腱板と肩甲骨周囲筋を強化する
腱板は、腕を動かす際に上腕骨頭を関節面の中央へ保ち、肩関節を安定させる役割があります。軽い負荷から始め、段階的に、
- 肩の内旋・外旋トレーニング
- 肩甲骨周囲筋のトレーニング
- 腕を上げた位置での筋力強化
- 繰り返し動かすための持久力強化
へ進めます。
単にインナーマッスルを鍛えるだけでなく、腕の動きに合わせて肩甲骨が適切に動くことが重要です。
4.手をついて身体を支える
日常生活やスポーツでは、腕を振るだけでなく、手をついて身体を支えたり、外から加わる力に耐えたりする能力も必要です。状態に合わせて、
- 壁に手をつく運動
- 四つ這いでの荷重
- Push-up(プッシュアップ/腕立て伏せ)
- 不安定な状態で身体を支える運動
- 急に加わる力へ反応する運動
へ段階的に進めます。
5.腕を上げた位置での安定性を高める
日常生活に問題がなくても、腕を頭より高く上げた位置や、肩を外側へひねった位置では不安感が残る場合があります。投球、サーブ、スパイク、ブロック、タックルなどを想定し、腕を上げた状態でも肩を安定させられる筋力とコントロール能力を高めます。
6.競技に必要なパワーと動作速度を取り戻す
スポーツでは、ゆっくり力を発揮するだけでは不十分です。- メディシンボール
- 体幹回旋を伴うトレーニング
- 投球やスイングに近い動作
- コンタクトを想定したトレーニング
などを組み合わせ、実際の競技で必要となる速度と負荷へ近づけます。
肩だけでなく全身をトレーニングする
投球、サーブ、タックルなどは、肩だけで行う動作ではありません。下半身で生み出した力を、股関節、体幹、胸郭、肩甲骨、肩、腕へ伝えることで、肩への負担を抑えながら力を発揮できます。
術後のリハビリでは、肩だけでなく、
- 胸郭の可動性
- 体幹の安定性
- 股関節の動き
- 下半身の筋力
- 片脚での安定性
- 全身の連動性
も確認します。
スポーツ復帰に必要な確認
スポーツ復帰は、手術から一定期間が経過したことだけでは判断しません。- 日常生活で痛みや不安定感がない
- 競技に必要な可動域が回復している
- 腱板や肩甲骨周囲筋の筋力が回復している
- 腕を上げた位置で肩を安定させられる
- 手をついて身体を支えられる
- 素早い動作を繰り返しても症状が出ない
- 競技動作に対する恐怖感が軽減している
- 練習後や翌日に痛みや不安定感が増えない
- 必要に応じて移行した骨の癒合が確認されている
- 主治医から競技復帰の許可が出ている
などを総合的に確認します。
手術からの経過時間だけでなく、筋力や機能テストを用いて復帰を判断することが重要です。
プラストレーナーズでの取り組み
手術内容と現在の状態を確認可能な範囲で、次の内容を確認します。
- Bankart(バンカート)修復術の有無
- 関節包縫縮術の有無
- Remplissage(レンプリサージ)法の有無
- Latarjet(ラタジェ)法・Bristow(ブリストー)法の有無
- HAGL(ハグル)損傷修復の有無
- Hill-Sachs(ヒル・サックス)損傷の有無
- 肩甲骨関節面の骨欠損
- 主治医から指示された可動域・荷重制限
- 移行した骨の癒合状態
- 病院で行ってきたリハビリ内容
- 肩の可動域・筋力を評価
肩の動きや腱板筋力だけでなく、腕を上げた位置での安定性、肩甲骨の動き、左右差、持久力を確認します。
段階的な筋力・安定性トレーニング
チューブや軽いダンベルから始め、プッシュアップ、ウエイトトレーニングなどへ段階的に進めます。競技動作を再獲得
投球、サーブ、接触、転倒など、実際の競技で肩に加わる負荷を想定してトレーニングします。痛みがないだけでなく、肩を気にせず全力で動ける状態を目指します。
主治医の指示を確認しながら進めます
肩関節脱臼に対する手術は、修復する組織や骨の処置によってリハビリ方法が異なります。Bankart(バンカート)修復術、関節包縫縮術、Remplissage(レンプリサージ)法、Latarjet(ラタジェ)法、HAGL(ハグル)損傷修復術では、動かしてよい範囲や筋力トレーニングの開始時期、スポーツ復帰までの過程は同じではありません。
プラストレーナーズでは、手術名、装具の使用期間、可動域制限、荷重制限、運動開始時期を確認し、安全に配慮しながらリハビリ・トレーニングを進めます。
このような方はご相談ください
- 肩関節脱臼の手術を受けた
- Bankart(バンカート)修復術後の筋力低下が残っている
- Remplissage(レンプリサージ)法やLatarjet(ラタジェ)法後のリハビリを続けたい
- 病院のリハビリ終了後も不安がある
- 手をついて身体を支えるのが怖い
- 投球やサーブへ戻りたい
- コンタクトスポーツへ復帰したい
- ウエイトトレーニングを再開したい
- 再脱臼が不安
- 手術前の競技レベルまで戻りたい
手術によって肩を安定させることをゴールにせず、再び投げる、支える、接触する動作に耐えられる肩と身体を取り戻すことが大切です。


