骨盤の前傾や後傾という言葉は、スポーツ界では本当に当たり前のように聞かれるようになりましたね。マラソンなどのランニングフォームでも、ゴルフスイングでも、さまざまな競技で「骨盤の角度」がパフォーマンスに影響すると言われるようになってきました。

多くの場合は「骨盤は前傾したほうがいい」という話が中心です。骨盤を前傾させることで股関節がよりスムーズに屈曲し、そこから大臀筋やハムストリングスといった大きな筋群が働きやすくなるため、より大きなパワーを発揮できると言われています。また、骨盤前傾は猫背姿勢を防ぎやすいという点でも、フォーム作りの重要ポイントとして扱われています。

こういった考え方は野球やソフトボールのバッティングフォームにも取り入れられ、次第に「骨盤は前傾したほうがいい」という共通認識が広がってきました。


たとえば、バッティング動作の一般的な流れとしては

1.軸足側の股関節にしっかり荷重して「股関節に乗せる」ように構える。
2.前足を上げた際、さらにその乗せる感覚を強めてタメをつくる。
3.軸足側の股関節に乗せたまま体重移動を行う。
4.前足が着地してからスイングを始動する。


言葉だけでは分かりにくい部分もありますが、こうした流れの中で「骨盤前傾を保つこと」が重要だとされるケースが非常に多くなっています。実際、プロ野球で言えば、ヤクルトスワローズの村上宗隆選手やオリックスバファローズの紅林選手など、しっかり前傾を取った構えをする選手も存在しています。


しかし、この骨盤前傾について、実はタイトルの通り「バッティングではスランプを悪化させる可能性があるのでは?」と感じる場面が少なくありません。もちろん、骨盤前傾そのものが悪いという話ではなく、問題になるのは “意識の仕方” です。



バッティングの調子を崩したとき、多くの選手がフォームのチェックポイントとして骨盤の前傾を見直すのですが、すでに十分前傾しているにもかかわらず、「もっと前傾が足りないのでは?」とさらに角度をつけようとするケースが意外と多く見られます。この“やりすぎ”が厄介で、骨盤を過剰に前傾させてしまうと腰椎が反りすぎてしまい、背筋が過緊張します。それによって胸椎や肩甲骨の動きを邪魔してしまい、スイングのしなやかさが一気に失われます。

特にスランプ期は感覚のズレを解消しようと意識がフォームに向きやすく、必要以上に姿勢を作り込んでしまう傾向があります。その流れで過度な前傾が習慣づくと、バットの出方や間合いの取り方にも狂いが生じ、負のループに入りやすくなります。

もちろん、骨盤が後傾してしまっていて、それがスランプの原因なら前傾を取り戻すことで改善されることもあります。ただ、実際のところ、そういったケースはそれほど多くなく、特に「骨盤前傾が大事」と強く意識している選手は、ほぼ例外なくすでに十分前傾しています。むしろ前傾しすぎていることに気づかず、それをさらに強めてしまうことがスランプに拍車をかけてしまうのです。

結局のところ、骨盤前傾は“適度”であることが大切で、意識しすぎてやりすぎてしまうと逆効果になりかねません。フォーム作りでもスランプ脱出でも、「前傾できているか?」ではなく、「前傾しすぎていないか?」という視点を持つことが意外と重要だったりします。

 

プラストレーナーズ
伊藤孝信